Learning from the classics, expressing the contemporaries, and deepening the plastic thinking in the process of drawing. Toshiaki Shibata is the sharp-eyed artist who pursues sophisticated figurative expression through capturing the essence of the figure.

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 我が国における最近の具象絵画の主流は、写真に裏付けされた形と、タッチを殺した固有色のグラデーションによる着彩がメインの「写実系」と、空間や立体と関連性のない線によって描かれた形と、形の変化と関係のない色によって構成された「オートマチック系」に分かれるような気がします。

 

 人気があることによって、主流となっているのでしょうから、それは市場の原理として受けとめるべきで、問題とは思っていません。また、そのような表現の是非について論ずるつもりもありません。私が思うのは、これらを生み出すもとになっているもののひとつに、教育が関わっているのではないかということです。

 

 美術教育、それも実技の専門教育の場において、ものの観方、捉え方をどのように教えるべきか、様々な考えがありますが、私は基本的に、過去の巨匠たちによって積み上げられてきた遺産は、流行とは関係なく引き継ぐべきだと考えています。

 

 ひと通り学んだ上で、自分の表現として選んでいるのであれば、何の問題もないのですが、もし教育の現場に市場原理が優先されているのだとしたら、学問や文化という観点からは問題だと思います。

 

 現在、我が国の美術の専門教育は、デッサンにおいてトーン(調子)の使い分けを軽視する傾向にあるように思います。このことは当然、タブローにも影響していると考えるべきです。

 

 これは、ニュートン以来の色彩学によって、過去の巨匠たちが発展させ、セザンヌによって完成をみた近代以降の『ヴァルール』の概念を、ルネサンス期の『モドゥレ(明暗による肉付け)』に退化させてしまっているように思えてきました。

 

 セザンヌ以降の近代絵画においては、トーンを駆使することで、ヴァルールを整え、空間を表現するという新たなメソッドが成立したにもかかわらず、一見矛盾するかのように、平面性の強い絵画が多くなっていくわけです。このことは、もしかしたら今日のトーンを軽視する絵画教育にも繫がっているのかもしれません。

 

 しかし、ヴァルールによる空間表現が可能だからこそ、平面性の強い絵画でありながら、リアリティのある空間や立体を創出することが出来たわけで、これこそが近代以降の絵画、20世紀モダニズム絵画の大きな魅力だと私は思っています。

 


 私たち制作者は、そして美術教育や造形学に関わる人は、この時代の『絵画の平面化』は、決して額面通りではないことを忘れてはならないと思うのです。

 

 このことについて、西洋美術館の『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』を鑑賞して、あらためて色々なことを考えさせられました。

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